1 :2024/07/23(火) 23:59:30.77 ID:KUYGNFfF9.net
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■「国内の肉体労働」vs「海外の頭脳労働」
クラウドサービスやインターネット広告などに代表されるデジタルサービスの提供は、多くの日本人が漠然と「海外(とりわけ米国)に後れを取っている」と感じていた分野ではないかと察する。その漠然としたイメージを数字で可視化したのがその他サービス収支赤字、すなわち「新時代の赤字」であり、日本銀行の分類でいえばデジタル関連収支ということになる。
こうして見ると、その他サービス収支赤字は為替需給という論点を超えて、日本経済が現在直面し、これからも付き合っていかねばならない課題について警鐘を鳴らす論点と考えられる。その意味で、「新時代の赤字」という表現は決して大げさなものではないと思っている。
現時点の現状を踏まえれば、日本が人手不足や物価上昇に耐えながら必死にインバウンド相手に稼いだ外貨(旅行収支黒字)が、日常生活に浸透した外資系企業の提供するデジタルサービスの支払い(≒その他サービス収支赤字≒新時代の赤字≒デジタル関連収支赤字)に消えるような状況にある。こうした状況を達観すると、観光という「労働集約的な産業」で稼いだ外貨がソフト面での競争力が重視される「資本集約的な産業」への支払いに充てられている状況にも読み替えられる。より平たく言えば、「国内の肉体労働」で稼いだ外貨が「海外の頭脳労働」に支払われている構図とも言い換えられるかもしれない。
断っておくが、「肉体労働で外貨を稼ぐ」という行為が問題だと言っているわけではない。問題は今の日本には肉体労働で正面突破するほど潤沢な労働力がもはや残っていないということである。いくらインバウンド需要があっても、インバウンド供給に限界があるのだとすれば、旅行収支黒字はいずれ天井に達する。片や、デジタルサービスに象徴される「新時代の赤字」は単価の引き上げが続くことが予想される。
「国内の肉体労働」から受け取る外貨は頭打ちで、「海外の頭脳労働」に支払う外貨は増加傾向なのだとすれば、その帳尻は為替(端的には円安)で合わせることにならないだろうか。
■「新時代の赤字」は言い値の世界
「新時代の赤字」を象徴する海外由来のデジタルサービスは経済活動に埋め込まれたインフラのような存在になっており、性質としては天然資源の輸入に近い。それゆえ、今後、段階的に値上げされたとしても、基本的には外資系企業の「言い値」を飲まざるを得ない未来が予想される。
類例はたくさんあるが、例えば2023年8月10日、アマゾンジャパンが発表した有料会員「プライム」の会費引き上げは大きく報じられた。同社のサービスが多岐にわたるためその売り上げが国際収支統計上、いずれの部分に該当するかは定かではないが、例えば有料会員に提供される動画・音楽配信サービスの類はその他サービス収支上の「知的財産権等使用料」、より厳密にはその構成項目である著作権等使用料として定義づけられるものだ。
その赤字が拡大傾向にあることが「知的財産権等使用料」の黒字拡大を抑制しているというのが近年の日本である。しかし、アマゾンの「プライム」会員の年会費が4900円から5900円、月会費が500円から600円に引き上げられたからといって、それを理由にプライム会員を解約したという人はおそらく多くないのではないか(筆者もその1人だ)。プライムサービスを使う消費者はそれが生活に根付いている可能性が高く、代替サービスが存在しない以上、多くは「仕方ない」と感じつつ、値上げを受け入れているのではないか。
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日本経済新聞はこうした日本の状況を憂いて「デジタル小作人」と報じたが、言い得て妙だろう。小作人とは「地主から農地を借りて農作物をつくる農民」を指す。米国企業から提供されるプラットフォームサービス上で経済活動を営み、場所代を徴収される状況は確かに小作人をほうふつさせる。その場所代が、筆者が懸念する「新時代の赤字」に相当する。もちろん、より厳密な議論をするならば、デジタルサービスの効果(ベネフィット)について分析した上で、「新時代の赤字」がもたらす副作用(コスト)と比較する必要がある。この点は他の諸賢の分析に委ねたい。
ただし、こと為替需給という点に関して言えば、小作人である限り、地主(象徴的にはGAFAM)に外貨を支払い続ける状況は変わりようがなく、それ自体が円安を支持する構図であることもまた、間違いない事実である。
2024.7.18
https://bookplus.nikkei.com/atcl/column/062800389/071100004/