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2024/01/23 Published 2024/01/23 10:30 (JST)
(略)「ごく一部の問題で、クルド全体を判断しないでほしい」(共同通信=赤坂知美)
▽「クルドカー」の青年、悪ぶっているけれど…
SNS上には、深夜に川口市内を走る車の映像があふれている。マナーの悪いクルド人が乗っているとして、「クルドカー」と揶揄される。市内で起きる騒音トラブルやポイ捨てにも結びつけられている。
実情はどうなのだろう。車でよく周辺を走るというクルドの青年に取材を申し込んだ。
12月のある日、黒のクラウンが待ち合わせ場所に現れた。運転席から現れたアリさん(仮名)は、腕や首に入れ墨がある。眉にはそり込みを入れている。つい身構えてしまう風貌だ。
しかし、そのいかつさとは裏腹に、「恥ずかしいから、カフェに入らず車で話そう」とシャイな物言い。同席してくれたクルド人支援団体のメンバーと後部座席に乗り込んだ。緊張をほぐそうと「車、かっこいいね」と声をかけた。すると彼は、少しうれしそうに答えた。
「これ、中古だから50万円だったんだよ。改造で100万円ぐらいになったけど」
アリさんは20歳のクルド人。2011年に家族とともに日本に来た。学校では日本語が難しくて勉強についていけなかった。同級生ともなじめず、中学校1年生の時に学校をやめた。
6、7年前からは在留資格のない「仮放免」の状態だ。就労は禁止され、県外移動は制限される。しかし、生活していくためには働かざるを得ない。中学校をやめて以来、父親の解体業を手伝っている。日曜日以外は朝8時から夕方5時ごろまで肉体労働だ。車も解体業で稼いで買った。クルド人の多くは運転免許を取得する際、簡単なトルコ語を話せる教官がいる教習所に行くか、英語の試験を受けるという。彼も英語の試験で免許を取得したという。
仮放免では健康保険にも入れないため、医療費は高額になる。虫歯の治療で30万円かかったこともあった。2カ月に1度は品川にある東京出入国在留管理局(入管)に行かなければならない。親戚が入管施設に収容され、トルコに強制送還されたこともあった。
SNS上のクルドカーへの批判についてどう思っているのだろうか。「これは俺が解体をして頑張って稼いだお金で買った。日本人も同じような車を買っている。何が悪い?」
日本社会を生きる中、日々向けられる他者からの視線にも敏感だ。「車をコンビニに止めていると、勝手にスマホで写真を撮られた」「コンビニで商品を購入しただけで、嫌な顔をされた」
日本人に対して伝えたいことも聞いてみた。
「俺たちは同じ人間。俺は悪いやつかもしれない。けれどもクルド人全体が悪いわけではないでしょ」
取材後、アリさんから「今日撮った写真を送って」と連絡が来た。人懐こい印象だったアリさん。悪ぶりながらも悩みを抱える様子は、同世代の日本人の若者たちと変わらないように思えた。
ただ、彼らは日本社会では異物として扱われる。クルド人社会でも、地域で軋轢を生む若者たちへの批判の声はある。同席した支援団体のメンバーがつぶやいた。
「日本人の大人にしっかりと話を聞いてもらったのは、今回が初めてだったのかもしれないね」
(略)
【取材後記】SNSの向こう側には生身の人間がいる
文化が違えば摩擦も起きる。私自身、大学院時代に支援活動に携わる中で、ゴミ出しや育児、金銭感覚など日本との違いに驚くことも少なくなかった。冒頭で紹介した昨年7月の事件のように、犯罪に関わるクルド人がいることも事実だ。
ただ、必死で日本語を勉強し、看護師や保育士になりたいと努力を重ねる子どもたちもいる。母親たちは日本の慣習になじもうと、私に細かなルールや祭り文化などを何度も質問してきた。文化協会は、防犯パトロールやゴミ拾いで地域に溶け込む活動を重ねている。元旦に発生した能登半島の地震後では、トルコ地震の恩返しにと、現地で炊き出しのボランティアを実施したクルド人たちもいた。
一部のクルド人の行動から、民族全体を危険とみなして社会から排除しようとする空気には違和感がある。逆の立場に立って考えてみたい。私たちが海外に移住し、現地で一部の日本人が事件を起こしてルールを守らなかった場合、日本人全体が糾弾されるべきだろうか。
SNSの向こう側に、投稿を複雑な思いで目にし、苦悩している生身の人々がいる。攻撃的な投稿をする前に、彼らに思いをはせてほしい。
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