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西日本新聞 5/17(水) 8:40
トランスジェンダーのうち、戸籍上は男性で性自認は女性の受験者の扱いについて、女子大で模索が続いている。2020年にお茶の水女子大(東京)が先駆けて門戸を開き、検討中の学校はあるものの、受験資格として認めているのは1桁台とみられる。九州の全8校で受け付けはなく、現場レベルで「多様な性」と向き合う動きがあった。
【通称名で学生生活】
<自身を女性と認識した経緯や現況について記入を>。同大は配慮を求める受験者用の願書を準備し、4項目で要望を聞き取る。出願前に入学後に必要な対応を話し合う。入試で不利に働くことはないという。
入学すれば学生証を含め、通称名で学生生活を送れる。トイレや更衣室は多目的トイレなどを案内している。カミングアウトされた際など教職員の心がけについて指針もまとめた。
「トランスジェンダーの学生が女子校・女子大に進学できないのは『学ぶ権利』の侵害に当たる」。日本学術会議による17年の提言後、同大を皮切りに奈良女子大(奈良市)、宮城学院女子大(仙台市)など少なくとも3校が続き、日本女子大(東京)が来年度からスタートさせる。検討中のところもあるが、約70校ある女子大では少数派だ。
【性自認の悩みは身近な話】
九州でいち早く、19年から検討し始めたのは筑紫女学園大(福岡県太宰府市)。当事者を招いた講演会で教職員や学生への啓発に努めてきた。今のところ受け付けには至っておらず、中川正法学長は「付属の中学高校を含め学園全体の議論がまだ必要」と明かす。
同大で環境整備を進める安恒万記(まき)教授(住環境デザイン)は「性自認で悩む学生は身近な話」と語る。15年ほど前から、年に数人が教職員に「性自認は男性」と明かすという。宿泊を伴う実習は個別に対応し、19年からは学生証や卒業証書を通称名で発行している。
「今の学生は多様性への意識が高い」(安恒教授)。同年の学生アンケートでは、自分と異なる文化や価値観の人と接することについて、8割が「戸惑いを感じない」と回答した。
【否定する世論の影響懸念】
九州ではこの他、福岡女子大(福岡市)が今月に検討委員会を発足させる。残る6校は検討しておらず、「先行例の情報がない」(北九州市の九州女子大)との声も聞かれた。
門戸開放は、少子化で学生の確保にあえぐ各校にとって利点もありそうだが、現実は一筋縄ではいかないようだ。女子教育に詳しい武庫川女子大の安東由則教授は「トランスジェンダーの女性を否定する世論もあり、影響を懸念しているのではないか。学ぶ権利の確保に向け、各トップの意識が試される」と述べた。 (平峰麻由)
「普通の女性と同じ選択肢を」
女性自認の高校生
福岡市内の高校に通うレンさん(17)=仮名=は、男性として生まれ、性自認は女性。2年生でこれから受験を控え、女子大の受験資格を巡る動きに注目する。「女子大に行けることは女性として学び、キャリアを積めるということ。普通の女子と同じように選択肢を認めてほしい」と話す。
物心ついた頃から、女子との「おままごと」が好きだった。小学校ではシール交換をしているところを男子から「何で女子と遊んどると」とからかわれてモヤモヤ。男子と一緒にいても「しっくりこなくて落ち着かない感じ」だった。
中学の学ランは嫌だったが、部活動に熱中して深く考えなかった。高校生になった昨春、ブレザーに袖を通した時のこと。違う-。ネクタイを巻いた瞬間に「抱いていた違和感が確信に変わった」と振り返る。
「うちは男じゃない」「スカートをはきたい」。泣きながら中学時代のスクールカウンセラーに相談した。初めて人に打ち明けた。
背中を押され、胸の内を告げた母親からは「いつか治る。普通に生きなさい」と返された。高校ではブレザーの代わりにパーカを着られるようになり、スカートについては「上層部の許可がいる」と認められていない。最近、教員から「夏服くらい普通の制服を着てよね」と言われたという。
「うちみたいな当事者の声も聞き、大学は環境を整えてほしい」。周りに理解されない生きづらさを感じるのは自分だけじゃない、そう思うからだ。