1 :2020/12/19(土) 13:28:10.73 ID:H2zVNB7j9.net
虫眼鏡で小さなアリを覗いてみると、そこでは人間社会と同じことが繰り広げられていた――。
30年以上、アリの生態や行動を研究してきた琉球大学農学部の辻和希(つじ・かずき)教授の研究はそんな意外なことを教えてくれる。
辻氏は「最も基礎的な研究が最も応用に役立つ」を信念として、アリを観察し続けてきた。
その目に、私たちが織りなす人間社会はどう映っているのか。
夢の実現や社会の改革に向けて地道な努力を重ねる研究者たちを紹介する「ニッポンのすごい研究者」。
第3回のテーマは「アリと人間」について聞く。
アリも協力したり、反発したりする
――研究のきっかけは何だったのでしょうか。
子どものころから昆虫が好きでした。春休み、夏休み、冬休み。そういう中で「スキーができるから私は冬休みが好き」
という子どももたくさんいたと思うんですけど、私は断然、昆虫でした。昆虫がたくさんいる夏休みが好きでしてね。
夏休みに家族で旅行に行くと、私だけ放っておかれて、ずっと昆虫採集している。そういう生活を送っていました。
普通の虫好きの子どもと同じようにチョウチョやトンボ、カブトムシを追いかけ回していたんですが、母が言うには、
物心つくかつかないかの1歳ぐらいのときに、よく軒先でアリの行列をじっと眺めていたらしい。
本格的にアリを研究対象にするのは修士課程に入ってからなんです。でも、本当は1歳のときからすでに魅せられていたのかもしれません。
アリを研究対象に選んだのは、実はそこまで深い熱意があったからではないんです。指導教官の勧めでした。
「女王アリがいないアリがいるらしい。面白いから、その生態を研究してみたら」と。
それで、アミメアリ(東南アジアから東アジアに広く生息する小型のアリ)を研究対象に選びました。
いざ研究を始めてみると、その面白さにのめり込んでしまって……。
アリと人間は当然違いますけど、社会を構成するという点は共通しています。人と人の間で集団の力学が働くのと同じように、
アリも協力したり、反発し合ったりと集団の力学が働いている。それが研究でわかるんです。
生物が集団でいるとどういうことが起こるのか。それを知ることができる点に引き込まれました。
――アリの集団の中で起きている興味深い事例があるそうですね。
2013年に「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」(オンライン版)に掲載された論文にまとめました。
その内容は「働かないアリは働きアリよりも長生き」というものです。
アミメアリを使って実験したところ、働きアリの労働に「ただ乗り」して、労働せずに産卵ばかりするアリが交じっていることを発見しました。
観察していると、働きアリは働かないアリの分まで労働するため早死にする。働かないアリは多くの子を産みますが、
産まれてきたアリも遺伝的に働かないので、働かないアリのコロニーは次世代の個体を残せなくなるんです。
行動経済学で言われてきた「力を合わせれば大きな成果が得られるが、他者の働きに期待して怠ける者がいれば協力が成り立たなくなる」
という「公共財ゲーム」のジレンマを、アリ社会の中にも見出せました。
裏切り者がいないかを監視し、厳しく罰する
ほかにも「裏切り者がいないか監視し、見つけたら厳しく罰する」という習性も見つかっています。
一般に、幼虫を育てたり、エサを捕ったりするのが働きアリの仕事で、産卵を担当するのは女王アリです。
こうした役割分担を守らずに、産卵する働きアリもいます。
アリ社会では「産卵=働かないこと」を意味するので、産卵する働きアリが出現すると、他の働きアリが産卵を妨害したり、卵を破壊したりします。
どうです??人間社会を彷彿とさせるでしょう?
しかも、その「取り締まり」の度合いが集団の成熟度によって異なるということも突き止めました。働きアリの数が100匹未満の若い集団の場合、
ほとんどの卵が壊されます。
ところが200匹以上の成熟した集団になると、破壊された卵は20%程度でした。つまり集団がまだ非力な時には規律が優先され
「強い取り締まり」が働きますが、集団が成長すると「取り締まり」が緩んで働きアリの利己的行動もそこそこ許容されるのです。
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