1 :2020/09/20(日) 16:44:26.72 ID:ENcXqIsj9.net
日本医療研究開発機構(AMED)は9月16日、マウス実験から、Setd1a遺伝子の機能低下が大脳前頭前野の神経回路の働きに障害を起こし、統合失調症と関連する行動異常を起こすことを発見したと発表した。これは、東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻神経生理学分野の長濱健一郎研究員(研究当時)、上阪直史講師(研究当時)と狩野方伸教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Cell Reports」のオンライン版に掲載されている。
統合失調症は、生涯のうちに人口の約100人に1人弱(0.7%)が罹患すると言われている。陽性症状(幻覚・妄想など)、陰性症状(意欲や社会活動の低下など)、認知機能障害(作業記憶、注意力、情報処理能力の低下など)などがあり、10代後半〜30代前半の若年者が多く罹患することからも、社会的な影響の大きな病気として知られている。遺伝的・環境的要因の両方が発症に関与する多因子疾患であり、近年の大規模な遺伝子解析で、100個以上の遺伝子の関与が示唆されている。それら関連遺伝子の中で、両親が健常者の統合失調症患者に生じる親が持たない、新たな遺伝子変異(デ・ノボ変異)が、統合失調症を含む精神疾患の発症確率を上げる重要な遺伝子変異として注目されてきている。しかし、統合失調症では実際の患者で同定されているデ・ノボ変異が、いかにして統合失調症の発症につながるのか、その全貌は明らかにされていない。
今回研究グループは、近年精神疾患の病態研究において、多数の関連遺伝子の発現機構に関わると考えられているヒストン修飾酵素の遺伝子SETD1Aに着目した。SETD1Aは、一部の統合失調症患者でまれなデ・ノボ変異が複数報告されており、その遺伝子変異があることで統合失調症が発症する確率が著しく上がる可能性がある。しかし、SETD1Aのデ・ノボ変異がどのような遺伝子発現の変化を生じ、どのような影響を神経回路の働きに及ぼすのかは不明なままだった。
統合失調症の治療抵抗性でみられる「社会性障害」がSetd1aの発現低下で起こる可能性
研究グループはまず、統合失調症の分子機構・神経回路におけるSETD1Aのデ・ノボ変異の役割を解析するために、患者で同定されたデ・ノボ変異を再現した遺伝子変異を持つマウス(Setd1a変異マウス)をゲノム編集技術であるCRISPR/Cas9法を用いて作製し、多角的な行動実験を行った。従来のモデル動物では、統合失調症に特徴的な全ての症状を再現することはできなかった。しかし、研究グループが新たに作製したSetd1a変異マウスは、統合失調症の陽性症状に関連する活動量の上昇、陰性症状の一部を反映する社会性行動の低下、認知機能障害のひとつである作業記憶障害、意欲の低下に関連した回避行動の異常など、統合失調症の臨床的特徴をより幅広く再現することができたという。
次に、統合失調症の病態で重要な脳部位と考えられる内側前頭前野での機能的・形態学的な解析を行った結果、シナプスの構成要素であるシナプス前部・後部両者の異常により、グルタミン酸による興奮性シナプス伝達が低下していることがわかった。また、クロマチン免疫沈降シーケンスやRNAシーケンスを行った結果、SETD1Aがヒストンメチル化を通して、遺伝子レベルでもシナプスに影響し、他のさまざまな精神疾患の病態にも関与する可能性を見出した。最後に内側前頭前野において、一部の神経細胞特異的にSetd1aを発現低下させたところ、統合失調症患者で治療の難しい陰性症状のひとつである社会性障害のみをマウスで再現でき、そのメカニズムの一端として、一部の細胞への興奮性シナプス伝達が重要であることが明らかになった。
Setd1a遺伝子変異マウスを用いた解析で、病態の全容解明や新規治療法の開発促進を目指す
統合失調症は、多数の関連遺伝子の報告とともに、その病態の基盤としてシナプス機能異常の重要さが指摘されている。その中でSETD1Aは、統合失調症の発症の確率上昇に強く関与する初めてのヒストン修飾酵素だ。今回の研究成果により、分子・神経回路基盤における詳細な役割とその一部細胞での発現低下が、興奮性シナプスを介して治療の難しい社会性障害へ関与することが明らかになった。
最近、同じSETD1A遺伝子についての別の遺伝子改変マウスで、社会性障害と同様に治療抵抗性の作業記憶異常に対する新規治療薬候補の報告がされている。(続きはソース)
2020年09月17日 PM12:15
http://www.qlifepro.com/news/20200917/setd1a.html