1 :2020/09/08(火) 07:27:41.83 ID:x4EARATh9.net
専門家の意見に耳を貸さず、無原則な譲歩に走った。その成果はなかっただけでなく、重い負債が残された。次の首相は、この失敗を直視して態勢の立て直しを図るほかない。
北方領土問題をめぐり、安倍首相は一昨年11月、重大な方針転換に踏み切った。四島返還の要求を封印し、歯舞(はぼまい)、色丹(しこたん)2島の返還による決着をめざすことにしたのである。
しかしロシア側は、第2次大戦の結果として四島全てがロシア領になったと確認するのが平和条約の役割だと主張した。
1956年の日ソ共同宣言は、将来に2島を日本に引き渡すと約束している。ロシア側はこれも「主権まで渡すとは書かれていない」と繰り返し、交渉はかみ合わなかった。
プーチン大統領は、安倍氏との交渉の過程で態度を硬化させたわけではない。以前からの立場を単に継続しただけだ。
日本の外務省には、過去の経緯やロシアの論理に通じた人材がいる。だが安倍氏と側近はその専門知を軽視し、「2島返還ならプーチン氏も応じるだろう」との思い込みで、長年の主張を一方的に後退させた。
対外政策の原則をゆがめたことも禍根を残した。14年にロシアは国際法を無視して隣国の領土を一方的に併合したが、それ以降も安倍氏はプーチン氏の顔色をうかがう接近を続けた。
主要7カ国(G7)の一員としてロシアに経済制裁を科しながら、一方で対ロ経済協力を担う閣僚ポストを新設したのは、いかにも二枚舌の対応だった。法の支配などの重視をうたった安倍政権の「価値観外交」は、看板倒れだった。
主権者である国民にも国会にも説明を拒んできたのは、民主主義に反する。交渉の駆け引きは明らかにできないとしても、基本方針を秘密裏に根本から変えたことは重大な問題だ。
次の首相は、対ロ平和条約交渉について、立ち止まる必要がある。これまで何が行われていたのかを検証し、国民に明らかにすることが出発点だ。
ロシアでは、反政権派の指導者に対し神経剤を使った暗殺計画の疑惑が浮上している。国際社会が厳しい目を向けるなか、日本の姿勢も問われる。
安倍首相がプーチン氏と会談を重ね、親しい関係を築いたのは確かだ。しかし外国首脳とにこやかに握手を交わしたとしても、実のある交渉ができるかどうかは別ものなのである。
2020年9月7日 5時00分 朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/DA3S14612415.html?iref=pc_rensai_long_16_article