1 :2020/08/24(月) 23:58:55 ID:CAP_USER9.net
7年という歳月は、短いようで長い。世の中も大きく変わる。現実世界におけるそのブランクで、ドラマの展開にも無理が生じることもある。
そういったこともあってか20年版は、ある部分に関しては13年版からそれほど時間が経っていないようにも解釈できるし、別の部分においては7年程度が確実に経過したように捉えることもできるという、時間の歪み現象が起きている。
これはおそらく製作者側が意図したものであり、あえて時の流れを不鮮明に、曖昧にしているのだろう。
しかしそのために、『半沢直樹』製作者は、ある大胆すぎる、信じられない荒業を行使しているのだ。
ドラマ『半沢直樹』は、『別冊文藝春秋』(文藝春秋)に連載された池井戸潤の小説が原作である。13年版の第1部「大阪西支店編」は『オレたちバブル入行組』(2003年11月号〜)、第2部「東京本店編」は『オレたち花のバブル組』(2006年5月号〜)がベースとなったストーリーだ。
だが、そもそもドラマの13年版は、舞台となる時代や登場人物の年齢設定が原作と違っている。
原作では、半沢直樹(ドラマでは堺雅⼈)、渡真利(同:及川光博)、近藤 (同:滝藤賢⼀)らは1988年⼊⾏で、それから⼗数年後……つまり、原作の初出同様に2000年代前半から中盤が舞台になっている。半沢らはまだ30代ということになる。
一方13年版では、半沢らは「平成4年度(1992年度)」の入行組であること、年齢が40代であることが明確に描かれている。
1992年春に大学を卒業した人が40代になるのは、ドラマの放送と同じ2010年代前半だ。
(中略)
前作になかったLINEが登場、喫煙者はゼロに
ドラマ『半沢直樹』20年版は、『オレたち花のバブル組』に続く、同じく池井戸潤による小説『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』が原作だ。
IT企業の買収騒動を描いた『ロスジェネの逆襲』の舞台は2004年、半沢直樹が子会社の「東京セントラル証券」に出向になって約2カ月後以降のストーリーがつづられる。
だが、20年版のドラマは、13年版の最終回で「東京中央銀行」の常務だった大和田(香川照之)が半沢に土下座してからわずか2カ月後以降を描いているかというと……そうでもなさそうである。
原作を離れた展開が多い20年版において、渡真利(及川光博)は「融資部融資課調査役」から「融資部企画グループ次長」に、黒崎(片岡愛之助)は「金融庁検査局主任検査官」から「証券取引等監視委員会事務局証券検査課統括検査官」に出世している。
子会社から銀行の広報のセクションに栄転した近藤(滝藤賢一:20年版には未出演)はシンガポールに長期出張中という設定になっている。
半沢花(上戸彩)は自宅でフラワーアレンジメントの教室を始めて盛況のようだ。いずれも、13年版最終回から60日程度しか経っていないという雰囲気ではまったくないのだ。
なお、13年版には喫煙者がわずかに登場したが、20年版では、飲み屋でのシーンであっても、加熱式を含め誰ひとりタバコを吸っていない。この変化も、やはり「2カ月後」とはとても感じられないゆえんである。
ただし、「時間の経過を明確にしない」というこの作戦において、どうにもならなかったのが、13年版に登場した半沢家の長男・隆博の存在だ。
子どもの成長ぶりだけは、どうしても不明確にすることはできない。
そこで製作者は、かなり強引な策に出た。隆博を消したのだ。
13年版で幼稚園児だった隆博は、20年版では第5話までにただの1度も登場していない。
在宅率が高い花が隆博を気にかけている様子もなく、夫婦間の会話にも子どもの話題が出てこない。
家のなかに家族の写真や隆博が描いた絵が飾ってある、玩具が転がっている、といった描写もない。
『半沢直樹』の公式サイトや公式ブックでも、相関図に隆博の名前はないし、出演者リストにも演じる人物の名前が記されていない。
半沢直樹の息子、半沢隆博は、明らかに抹消されているのだ。
確かに、花と隆博はそもそも原作の『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』には登場しないキャラクターだ。
だが、20年版のドラマ独自の展開として花を登場させた以上、半沢家にその息子である隆博がいないのは、なんとも不可解である。
どうやら『半沢直樹』20年版は、13年版から直結した続編ではなく、パラレルワールドの近未来を描いた作品である……と考えるのが正しいのかもしれない。