1 :2020/08/17(月) 11:27:09 ID:CAP_USER9.net
たとえば、取締役の大和田(香川照之、歌舞伎では市川中車)。7年前の前作では、主人公・半沢直樹(堺雅人)に不正を暴かれ、「倍返し」された揚げ句、屈辱的な土下座もした。歯を食いしばり、真っ赤になった大和田の顔には、描いてないのに隈取りが見えた思いだった。
その大和田が、第1話で放った一言といえば「施されたら、施し返す。恩返しです!」。この瞬間、このドラマの「つかみ」は成功したといえる。
その後も、大和田は半沢に会うたびに何か言わないと気が済まないのか、わざわざ「お・し・ま・い・death!」と面白造語まで用意している。どんな取締役なんだよ…もはやギャグだが、視聴者を沸かせ、ファンを増やしているのは確かだ。
そして、出てくるなり嫌な空気を漂わせた東京中央銀行の証券営業部長・伊佐山(市川猿之助)。「ぜってぇに許せねえ!」と侠客(きょうかく)のような言い回しで、子会社のセントラル証券に出向した半沢への敵意をむき出しにし、半沢らが手がける大口取引の横取りを図って追い詰める。
伊佐山も汚い手を使ったり、副頭取の三笠(古田新太)に取り入ったりと暗躍しつつ、ここ一番のときには半沢の目の前で「お前の負け〜」「詫(わ)びろ、詫びろ(計8回繰り返す)」など、強烈な言葉をぶつける。
そんな中、前作で注目を集めた証券取引等監視委員会の剛腕の調査官・黒崎(片岡愛之助)が突如、姿を見せ、「お久しぶりね」と例によってオネエ言葉で、セントラル証券の調査を断行。愛之助は歌舞伎仲間も増えたせいか、なんだかとってもうれしそうだった。
半沢が悪徳大手IT企業からの買収を阻止した新進IT「スパイラル」の社長・瀬名(尾上松也)も入れて、4人の歌舞伎俳優の演技を振り返ってみると、彼らの強みがよくわかる。それは「やり過ぎOK」ということだ。
そこまで言うかという悪口や高笑い、顔芸や胸を張って威張る動きは、現代ドラマでは浮きまくるところだが、「倍返し」したくなる悪が不可欠なこのドラマにおいては、とても効果的だ。
「詫びろ」の連呼にしても、言葉を繰り返すのは歌舞伎にはよくあること。先日、「王様のブランチ」に出演した香川と猿之助のいとこコンビによると、このドラマにはリハーサルがなく、アドリブで言い合った場面のいいところを監督が採用しているという。
また、大和田と伊佐山は、いつもグレーのスーツを着ていたが、歌舞伎の衣装で、ちらりと見える下帯(ふんどし)が白でなく灰色なのは、心が汚れた悪役を現すと聞いたこともある。スーツと下帯をいっしょにするのはどうかと思うが、勧善懲悪のわかりやすさが魅力でもあるこのドラマで、灰色の結託感もいい味を出した。
猿之助らは、歌舞伎の引き出しの中から、次々アドリブ技を出し、浮きまくることを面白さに替えてしまったのである。
大和田を裏切り、「土下座野郎!」とまたまた面白ワードを発したものの、半沢に巨額融資に関する決定的なミスを指摘され、「まこ…とに…あい…すい…ま、せんでしたぁぁ〜〜〜」と自ら膝を屈するハメになってしまった伊佐山。そのヒールっぷりはあっぱれだったが、猿之助の敵役の引き出しは、まだいろいろある。
過去の強烈な敵役といえば、2010年の大河ドラマ「龍馬伝」の最終回で坂本龍馬(福山雅治)を暗殺する今井信郎だ。冷たい目をした今井は、その目のまま、龍馬に襲い掛かる。返り血で顔を真っ赤にする今井。恐ろしかった。
2020/8/17 11:00 (JST)
https://this.kiji.is/667657868108301409