1 :2020/06/03(水) 19:56:54 ID:c2expkTF9.net
高脂肪食負荷時における膵β細胞量調節機構
神戸大学は、日本人2型糖尿病の原因遺伝子の1つであるEIF2AK4遺伝子が糖尿病を引き起こすメカニズムを世界ではじめて明らかにしたと発表した。
これにより、なぜ日本人は欧米と比べ少しの肥満でも2型糖尿病を発症しやすいのかという疑問の一部が明らかになった。2型糖尿病の発症予測や個別化医療への応用が期待される。
■なぜ日本人は少しの肥満で2型糖尿病になりやすいのか
研究は、神戸大学大学院保健学研究科の木戸良明教授、医学研究科糖尿病·内分泌内科学部門の淺原俊一郎助教、神野歩医学研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、米科学誌「JCI Insight」に掲載された。
日本では欧米と比較して肥満が少ないにもかかわらず、人口当たりの糖尿病患者数は欧米に匹敵することが知られている。これは、日本人ではインスリンを分泌する膵臓のβ細胞が脆弱であるからだとされている。しかし、なぜ日本人の膵β細胞は脆弱なのか、どのような治療が適切なのかについてはよく分かっていない。
そこで研究グループは、2型糖尿病の原因遺伝子であるEIF2AK4遺伝子に着目し、今回の研究で、EIF2AK4遺伝子がつくりだすタンパク質であるGCN2が2型糖尿病の発症抑制に重要な役割を果たしていることを世界ではじめて明らかにした。
EIF2AK4遺伝子は2008年に日本人で2型糖尿病原因遺伝子の1つとして同定された遺伝子であり、遺伝子内のSNP(一塩基多型)が2型糖尿病の発症リスクに関係することが報告されている。
遺伝子を構成しているDNA配列の1ヵ所の塩基配列が別の塩基配列に代わっているものが集団内で1%以上の頻度でみられるとき、これを一塩基多型(SNP)と呼んでいる。SNPは2型糖尿病などの生活習慣病のなりやすさと関連していると考えられている。
■2型糖尿病の原因遺伝子があると膵臓のβ細胞が減少
研究グループが、EIF2AK4遺伝子内の2型糖尿病発症との関連が報告されているSNP(一塩基多型)をもつ人ともたない人で比較したところ、このSNPをもつ人ではインスリンを分泌する能力が低下しており、身長あたりの体重が重くなるほどインスリンを分泌する能力が低くなることが分かった。
一方、EIF2AK4遺伝子はGCN2(タンパク質)をつくりだす遺伝子であり、EIF2AK4遺伝子のSNPをもつ人はGCN2が不活性化することが確認されている。
GCN2をなくしたマウスは、通常のエサを与えても糖尿病を発症しなかったが、高脂肪のエサを与えることによりインスリンの分泌量が少なくなり糖尿病を発症した。このGCN2をなくしたマウスでは、膵臓のβ細胞が減少していることが判明した。そのβ細胞では、細胞の成長を促すシグナルに異常をきたしていた。
以前より、GCN2は細胞内のアミノ酸濃度が低下したときに働くことが知られているが、今回の研究では、高脂肪のエサを与えられたマウスのβ細胞ではアミノ酸の濃度が低下しているという結果が得られた。
高脂肪のエサを食べることによりβ細胞は多量のインスリンを産生するが、インスリン産生のためにアミノ酸が多く消費され、濃度が低下したものと考えられる。
上述の高脂肪のエサを与えられたGCN2をなくしたマウスでは、β細胞のアミノ酸濃度が低下するが、その際に働くべきGCN2が働けないために細胞の成長を促すシグナルの異常が起こってβ細胞の量が減少し、糖尿病を発症した可能性がある。
■SNPを調べれば糖尿病の発症を予測できる可能性が
EIF2AK4遺伝子内の日本人2型糖尿病との関連が報告されているSNPは、他の人種と比較すると日本を含めた東アジア人で多く認められる。データによると、全世界でSNPをもつ人は10%未満だが、今回の研究では38%の人がSNPをもっていた。
このSNPをもつ人が過食や肥満をきたすことでGCN2をなくしたマウスと同様の異常が起こる可能性がある。つまり、このSNPをもつ人はもたない人と比べ、肥満した際の膵β細胞が脆弱であり、2型糖尿病を発症しやすいと考えられる。
今回の研究で、EIF2AK4遺伝子とその遺伝子がつくりだすタンパク質GCN2の活性の低下が糖尿病を発症させるメカニズムが明らかになった。
今後、EIF2AK4遺伝子にSNPをもつかを調べることで2型糖尿病の発症予測が可能となり、SNPをもつ場合に早期から生活習慣に介入することで2型糖尿病の発症抑制に貢献できる可能性がある。
2020年06月03日
https://dm-net.co.jp/calendar/2020/030133.php