1 :2020/01/17(金) 15:23:53 ID:p5YGwDne9.net
「中学受験のときは両親が私の椅子の後ろに立っててね、背中に包丁を突き付けられながら勉強したんだよー」
大学時代、名門中高大一貫校に通うお嬢様女子大生から実際に聞かされた言葉だ。あんまり明るく言うものだから、私たちはみんな冗談だと思い、「怖っ」と笑い飛ばした。
その場にいたのは、私も含め公立校育ちの地方出身者ばかり。塾通いをしたこともなければ身近に中学受験をする友達すらおらず、そこまで受験に入れ込む親というものを、リアルな存在として想像することができなかったのである。
2016年8月、中学受験を控えた小学生の息子を父親が包丁で刺し殺した事件の一報を耳にしたとき、真っ先に思い出したのが、冒頭に挙げた知人の話だった。
中学受験生に包丁を突き付ける親は、実在していたのだ。
かつては遠い世界のお話でしかなかった中学受験は、4人に1人が私立中学に進学する東京都で小学6年生の親をやっている身には、身近な話題となった。
包丁こそ飛び出さないものの、中学受験後に離婚だとか、難関校を目指している子がクラスメイトの志望校をバカにしてひと悶着だとか、まあまあ穏やかではない話を耳にする。
Twitterを見れば、受験塾から日曜特訓代を含めてひと月に30万円以上引き落とされたという悲鳴のようなツイートが何千もリツイートされている。
授業料がそこまで高額になるのは、中学受験をする小学6年生は日曜日ですら長時間拘束されていることを意味する。
そうまでして、という言葉が口をついて出そうになるのは、私が無知なせいもあるのだろう。多くの親子が多大なリソースを割いて熱中するからには、それだけの理由があるはずなのだ。
中学受験はなぜ親子を「狂気」にまで追い込むのか、その構造的理由
夫に見下された妻の怒り
君達が合格できたのは、父親の『経済力そして、母親の『狂気』」
カリスマ塾講師のこんな言葉から始まるのが、架空の中堅受験塾「桜花ゼミナール」を舞台にした青年マンガ『二月の勝者-絶対合格の教室-』(『ビッグコミックスピリッツ』2018年1月より連載中)である。
ほらきた、狂気。おかしな教育ママと家庭に無関心なエリート父、受験マシーンに仕立てられた鼻持ちならない子供というステレオタイプな家庭像を即座に想像する。
読み進めれば、この予断はすぐに裏切られる。桜花ゼミナールの生徒、そしてその親の多くは、身近にいてもおかしくないほどごく普通のありふれた人々だ。
特に生々しいのが、第2巻に登場する武田勇人の両親の描写である。下位のRクラスに属する勇人は、学童代わりに塾に放り込まれただけの普通の男の子だ。
勉強よりもゲームが好きで、成績もふるわない。
母の香織は勤続20年の優秀な美容部員だが、育児中というハンデと学歴(高卒)のため、店長にはなれずヒラのまま。仕事のできない大卒店長のミスのしりぬぐいを押し付けられる理不尽な日々を、心に蓋をしてやり過ごしている。
勉強に乗り気じゃない息子に塾を続けさせているのは、学歴のないつらさを、誰よりも実感しているからだ。
土日も仕事である彼女は塾の面談の出席を夫に頼むが、夫はスマホゲームをしながら「俺は絶対に仕事抜けらんないから」「お前の仕事みたいに代わりがきくワケじゃないからさ」と取り合わない。
夫の暴言にいら立ちながらも、彼女は「ぶつかるより飲み込んだほうがラク」と感情を押し殺し、笑顔で耐える。
優秀であるにもかかわらず、学歴と家事育児負担のために職場では低い地位に押しとどめられ、家庭では職場での地位の低さゆえに夫に見下されて家事育児を押し付けられる。香織は現代日本の「女性活用」を象徴する存在だ。
息子に春期講習を受けさせたいと相談した香織は、例によってゲームから目を離さない夫に「いいカモ」「資本主義のドレイ」とバカにされ、ついに怒りを爆発させる。
何がいいカモだ
あんたこそ
画面のキャラに課金してんじゃねーよ。
(略)
子どもに「課金」して、クソ強いキャラに育てよーとして何が悪い。
勇人にどんな敵でもラスボスでも倒せるクソつええ武器持たせたいんだよ。
そのためなら、課金ゲー上等!!
香織を見くびってきた夫の言動にイライラしてきた読者としては、マンガ表現の巧みさもあって、よく言った! とスタンディングオベーションしたくなるシーンだ。
しかし字面だけ眺めれば、どうかしている発言なのは否めない。母親の「狂気」を他人事として眺めるはずが、すっかりこちらが「狂気」に飲み込まれてしまっていることに気づく。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200117-00069812-gendaibiz-soci
1/17(金) 11:01配信