1 :2019/12/10(火) 20:17:53 ID:Wjq6lXQi9.net
2019年11月28日──ツイッターのトレンドに、突如として「負の性欲」なる禍々しいオーラを放つ4文字のワードが登場し、その日ずっとトレンド欄から消えることはなかった。もうツイッターは、いや、インターネットは終わりなのかもしれない。
もともと「負の性欲」とは、「リョーマ」と名乗る(アンチ・フェミニスト系の)アカウントが2019年7月に考案したワードである。「女性による、よりよい子孫を残すための男性に対する選別と、そうした選別によって『アウト』と判定した相手に対して(自己防御的に)発露する生理的嫌悪感」を指し示す語だった。
「リョーマ」氏のアカウントはツイッター規約に違反しているとされて凍結された。「負の性欲」が爆発的な流行を見せ、ミームとして急成長したのは、発案者がツイッターを去った後のことであった。
女性から男性に対する「キモい」ということばは、しばしば「『キモい』という感情を抱かされた私は被害者だ(そして加害者は、キモいアイツである)」といったニュアンスを帯びる。「キモい」「生理的に無理」といった拒否反応を、他人に向けることの加害性に無自覚な人びとに対する批判的説明として、「負の性欲」ということばには、大きな説得力があったのだろう。
そして、その生理的嫌悪感が、多くの女性にとっては実社会で関わり合いになる機会も少ないような人びと(とりわけ、いわゆる「キモ・オタク」とか「非モテ」などと侮蔑的に呼ばれるような人びと)に向けて頻繁に言明されることに対する、「カウンター」としての文脈をも強く帯びていた。
「キモい」ということばを向けられる男性は、「侮辱や差別を受けた被害者」ではなく、むしろ「女性に不快感を与えた加害者」とされる。そうした状況に違和感を抱く人びとのなかで鬱積していた思いを、「負の性欲」ということばが当意即妙に代弁し、巨大なバズ・ワードとして猛烈な速度で成長したのだ。
■ 男女の「生殖戦略」の違い
「負の性欲」なるワーディングには新奇性があるようにも見えるが、説明されていること自体は、生物のあいだにおおよそ広くみられるものである。しかしながら、広大なネットの海を漂っているうちにことばの定義や意味が発散してしまうこともままあるため、ひとまず、その原義を把握しておこう。
一般に、生物のオスは自らの遺伝子をより多くのメスに播種しようとする。いわば、自分の遺伝子を「拡散」させることに強いインセンティブがある。理論的には、オスは同時に複数のメスに自分の遺伝子を抱えさせることができるためだ。
一方のメスは、同時に複数のオスからの遺伝子を受け入れられるわけではない。周囲に100のオスがいたとしても、一度の妊娠では単一のオスの遺伝子を受け継ぐほかない。したがって、より優れた子孫を残すためには、オスのなかでもより優れたものを「厳選」することに強いインセンティブがある。実際に人間においても、男性はより多くの相手との短期的な配偶機会を求める傾向があり、女性はより少ない相手との長期的な配偶関係を求める傾向があることが示されている。*1
言い換えれば、オスの性欲は「交渉権の行使」であるのに対して、メスの性欲は「拒否権の行使」であるともいえる。
積極的・能動的にパートナーを探し、あわよくば複数のメスとたくさんの子孫を残そうとするオスと、受動的・消極的にパートナーを選ぶことで子孫の生存確率を高めようとするメス──前者の行動を「正」の性欲に基づく行動とするならば、後者の行動はまさしく「負」の性欲に基づく行動といえる。ここでいう正/負はあくまで行動様式の方向性を指し示すものであり、「正」がGOOD(善)で、「負」がBAD(悪)という意味ではない。
「負の性欲」が一気に拡散した理由には、「負」という語に「悪い」というニュアンスを読み取った人びとからの拒否反応や怒りもあっただろうが、それは誤解である。皮肉なことに、そうした人びとからの「拒否反応」こそが、まさに「負の性欲」が指摘する内容そのものであった。
自分にとって到底受け入れがたい男性のことを遠ざけたい、ましてやそうした男性が性欲を自分に向けることなど言語道断、断固として拒絶したいと感じることを「それは(負の)性欲だよ」などと言われて腹が立つのはわからないでもない。
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https://news.livedoor.com/article/detail/17498121/